ヤギが脱走した。
首輪にリードをして、柱につないでいたら、自分でぐるぐる巻きになっちゃって、動けなくなっちゃった。
解こうと思って、リードを少し取ってやると一目散に逃げていった。
ハウスの中にいるので、外に逃げていくことはなかったが、ハウスの中は結構広い。
しかも2頭もいる。
近づいたら、一定の距離をとって離れていく。
ゆーっくり、ゆーっくり近づいても、向こうもゆーっくりゆーっくり離れていく。
このままじゃらちがあかない。
強硬策に出ようと、勢いよく近づくと、向こうもものすごい勢いで、ダッシュして、逃げてしまった。
何人かで囲んで、逃げ場を無くしてから、捕まえようとすると、人の間をスルリと素早い足取りで、かわされてしまった。
そして、そのまま柵をバーンと突き破って、山の中に入っていってしまった。
こうなると、もう何もできない。
疲れが一気に押し寄せてきた。
ヤギと格闘して、もう長い時間経ってた。
いや、待てよ?
なぜ、格闘してるのか?
そんなことが脳裏に浮かんだ。
今まで、力でどうにかヤギを制圧しようとしていた。
その結果、向こうも力を発揮して、反発されてしまい、距離がどんどん離れていった。
「力で行くのは、辞めよう」
山に逃げられてしまい、心を入れ替えることにした。(もう手遅れかもしれないが)
幸い二頭のヤギは、山の入り口付近の木の下で、モシャモシャと草を食べていた。
ヤギは結構、米糠が好きだ。
米糠をやると、ペロペロと夢中になって食べる。
まず、餌として米糠をあげることにした。
二頭のヤギの近くに、米糠をどさっと。
そのあと、僕は距離をとって、ヤギがどんな行動をするのか観察してみた。
すると、米糠の方に寄ってきて、ペロペロペロッとすごい勢いで、米糠を食べ始めた。
よしよし。
僕はまた米糠を手のひらいっぱいに入れて、近づくことにした。
慎重に慎重に。
やっとヤギの近くに、行くことができた。
米糠でいっぱいになった両手を差し出すと、何と食べてくれた。
ペロペロペロッ。
これで、すぐ捕まえたら、警戒されると思い、また、同じように米糠を手のひらいっぱいに盛って、ヤギの元へ。
ペロペロペロッ。
そんなことを繰り返して、徐々にヤギとの距離を詰めていく。
ガシッ。
間合いをはかって、一気にいった。
やっと、首輪を掴むことができて、リードを繋げることができた。
これで安心だ。
今回の目的は果たすことができた。
今回、このヤギとの一連のやり取りで大切なことを学んだ。
物事には、「豪と柔」の二つのアプローチがあるらしい。
ヤギを力づくで、捕まえようとすることは、「豪」であり、餌をやって、捕まえようとすることを「柔」だと思う。
ここで学んだことは、力には、力で対抗されるということ。
力でアプローチすることは、時として、正解かもしれないが、うまくいかないことが多そうだ。
なぜなら、向こうも力を持ってるから。
力ではない間接的なアプローチを取ると、相手は力で対抗してこない。
いや、こちらも力を使ってないから、向こうも力を使えない。
ヤギとのやりとりが、まさにそうだった。
そして、1番大事なことが、緊急の場面で僕が一番最初に選択したのが、「豪」だったということ。
そもそも、「柔」というアプローチは、選択肢にすら入ってたかった。
緊迫時に、「豪」を取ってしまいがちな性格だということが分かって、非常に良かった。
アプローチは、複数あることが多いので、簡単に思いつく「豪」ではなく「柔」も探そうと思った。
そんなヤギとの日常です。