「椎茸の菌打ちするからおいで」
金吾さんに、呼ばれた。
金吾さんの農園は、伊万里の中心地から外れた山の中にある。
僕は同じ地区に6年間住んでいたが、山の中に行ってたら、途中で道に迷った。
そして、車が畑にはまった。
土の凸凹に完全にタイヤがハマってしまった。
どんなにアクセルを踏んでも進まない。
バックは出来るが、すればするだけどんどん下に落ちて、もう一人では戻れなくなった。
幸い椎茸林の近くにいたので、助けに来てもらったが、どんなに押しても、ダメだった。
ロープで引っ張ろうってことになって、車と車をロープで縛ってなんとか抜け出すことができた。
助けてくれた人は、笑いながら動画を撮っていた。
「ハ、ハ、ハ。今日は最高の日やったばい」
なんか、その言葉を聞いて救われた。
そして、何故かこっちまで楽しくなった。
車が動かなくなったのに。
「人の失敗は笑うな」
って教えられた。
でも、僕はこの失敗を笑われて、本当に気持ち良かった。
この違いって、なんなんだろうか?
まだ、イマイチわからない。
ただ、あの笑いは、全然僕を傷つけなかったし、むしろ、僕を救った。
この笑いについて、これから、もっと観察してみよう。
さて、金吾農園に着いた。
火曜日は毎週集まって、みんな作業してるらしい。
今日は椎茸の菌打ち。
菌打ち自体はすごく簡単だ。
ただ、くぬぎを集めたり、運んだり、菌打ちして、2年間放置したりと、とにかく時間がかかる。
この時間がかかるってことがすごくいいなって思えた。
あらゆることが瞬時に叶う世の中で、実はそれって意外とストレスなんじゃないかな。
子供も来ていたが、このゆっくりとした時間の経過を成長と共に追えるのは、今の時代だからこそ、必要な体験だと思う。
現場には、想像以上に人がいて、びっくりした。
15名以上居ただろうか。
しかも、みんな元気に働いている。
話を聞くと、みんな勝手に来て、勝手に作業して、みんなでご飯して、それぞれのペースで帰っていくらしい。
そこにお金が介在していない。
楽しいから来る。
来たいから来るそうだ。
福岡とか佐賀の方から来てる人もいる。
車で1時間以上かけて。
そして、話を聞くと、有名な会社の役員や有名大学出身者なども結構いて、それぞれ専門性を持った人たちだ。
九州大学の学生もたまに遊びに来たりする。
こんな田舎の伊万里の片隅に。
ここではお金は一切介在してない。
でも、みんな楽しそうだ。
みんな、元気だ。
「ここは、ノボセモンの集まりやけん」
金吾さんは言う。
こういう人が勝手に集まって、それぞれのペースでそれぞれの目的を果たす場所が、あるって素晴らしいなって思う。
すごく憧れる。
まず、僕がやること。
それは農業で自立すること。
金吾農園は、素晴らしい。
ただ、みんな引退して、余裕があるから出来ることだと思う。
僕はこれから未来があるし、僕がここで楽しく経済的にもしっかりと生きていることを見せたい。
何も持ってないからこそ、道を切り拓いて、田舎の価値を変えれたらなと思う。
いろんな手続きや挨拶、片付け等、やることが多くて大変だけど、一つ一つ片付けていきたい。
不安がいっぱいだし、楽しみもいっぱいだ。